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サマリタンズホームページより/第9号

 

2015年8月15日発行

■沈黙を効果的に用いる

解題:7号に引き続き、ノッティンガム大学による研究報告書「サマリタンズが行う電話およびEメールによる情緒的援助サービスの評価」の抄訳である。今回は 第6章のうち「共感」と「傾聴」に関する部分を訳出した。「『何を言うか』よりも『どのように言うか』の方がずっと重要だ」、「沈黙を効果的に用いることで掛け手に間を与え、話すように奨励する」などの指摘は、 私たちにとっても役に立つのではないだろうか。

共感する

 ボランティアの責任の中心は掛け手のために「そこにいる」ことだと、インタビューに答えてくれた人たちはしばしば述べる。このことは共感を達成することと密接に関連しているように思われるが、それは、掛け手の心配事をボランティアが受け止めて理解しているということを、掛け手に効果的に伝える中で実現される。共感は、掛け手との対話における最も重要な要素であり、かつボランティアの重要な資質だとしばしば考えられている。

 共感は、傾聴の能力および他の根幹をなす諸原則(たとえばアドバイスすることを避けるといったこと)と同じグループに属するものであり、またサマリタンズのもっと強力な技量の一つだと論じられている。それは、これからボランティアになろうとする人に求められる資質の一つであるが、それが訓練によって身につけられるものであるか否かに関しては議論がある。

 ボランティアは訓練によって共感を身に付けてきたと信じる人がいる一方で、人は生まれながらに共感的であるかそうでないかのどちらかだと主張する人もいる。

 私が主にやっていることは、掛け手に対して共感しようと努力することです。それがとても難しいと感じることも時にはありますが、でも私は、掛け手と共に真にそこにいるという感覚を得るように努めています。同時に、「聞いてもらえている、理解してもらえている」という感覚を掛け手に伝えるように努めています。

 私たちが求めているのは、共感することができ、かつ指導しようとはしないボランティアです。そういう人たちは、アドバイスをしないし、間の取り方とか沈黙といったものの価値、それに掛け手への対処の仕方を理解しています。私たちが求めているのは、優しい口調とか、ある種の思いやりのある姿勢とか、辛抱強さのようなものだと思うんです。そういった類いの資質を相手に期待することができたとき、人は自分の胸の内を語るようになると思うんです。

 上のインタビューで述べられているように、共感は、間の取り方の感覚、ペース、そして声の調子の価値を認めることと結びついている。注意深く選ばれた言葉とそれを相手に伝えるやり方の組み合わせこそ、掛け手に対して共感を伝える際に最もよく使う方法だと、ボランティアは見なしている。信頼もまた、掛け手との関係において重要な(時には最も重要な)要素だと論じられている。掛け手は、電話や面接の場で接する個々のボランティアを信頼できる必要がある。 その中でこそ、掛け手はゆったりした気分になって、つらい事を話せるようになるのだ。ボランティアはこのことに努力するとともに、掛け手からの信頼を得られるように努め、同時に、掛け手が安心してざっくばらんに事柄について話すことができるよう援助するのだ。

 私たちは電話において、共感できる人だという印象を与えなければなりません。それが実現できて初めて、声の調子とか他のあらゆることが相手の支えになるのです。

「どのように言うか」の方が、「何を言うか」よりもずっと重要であることが明らかになってきています。確かに、私たちの思考においても、またある程度は研修においても、私たちは内容に焦点を合わせがちではあるのですが。現実の掛け手にとってはこれが真実だと、私は確信しています。

 よい通話と悪い通話の違いをもたらすのはそれなんです。それが、掛け手との間の信頼感を自然に生み出していくのです。


傾聴する
 傾聴は、サマリタンズとしての任務の中心的な要素だと、ボランティアたちは論じてきた。積極的傾聴(訳注1)というサマリタンズのやり方は複雑なプロセスではあるものの、掛け手のタイプや電話の中身がどうであれ、聴くことには変わりないと、多くのボランティアは論じている。掛け手の話を誠実に聴くというのは、適切でないことの多い初めの憶測を脇に置いて、掛け手を黙って受け入れることを意味するのでなければならない。

 そこに必然的に含まれるのは、話を続けるように掛け手を積極的に励ますことと、探りを入れるような質問や伝え返しとか要約を用いることを通して、掛け手の話を聞いていることを相手にはっきり示すことである。傾聴することで、サマリタンズは、掛け手の人物像を不適切に同定するといった誤りを犯すことを避けられるようになる。 そのような誤りは、結果として真の傾聴を妨げ、ボランティアは無意識のうちに、そうした掛け手から自らを閉ざす可能性がある。

人のことを決めつけて、「ああ、これはこれこれの電話だ」とか、「これは精神衛生上の問題を抱えた人からの電話だ」とか、「これは性の話になりそうな電話だ」などと考えるのは簡単ですよ。だから私は、掛け手に自分が言いたいことを話す時間を与えて、ただ聴くように務めているんです。人はともすると、自分は話が聴けているとか、これはあの手の掛け手だとか考えて壁を作り、掛け手が話していることを実際には聴かないといった風になりがちだと思いますよ。

 聴くことですよ。掛け手が表現しているそのままに相手を受け入れるんです。相手を認めるって言ってもいいかもしれません。評価しないでね。

 傾聴していることを掛け手に示す独特のやり方を用いる様子を、ボランティアたちは説明するとともに、このやり方が、聴いてもらえていると掛け手が確かに感じられるようにする方法だと、いつも論じている。傾聴について話し合う上で大きなテーマになるのは、掛け手に対してものを言うことと、言い過ぎないこととの間のバランスである。話しすぎないこと、および、沈黙を効果的に用いることで掛け手に間を与えて話すように奨励することは、非常に特色のある方策である。

 しかしその一方で、何も言わないのはボランティアが聴いていない兆候だと受けとられる可能性もある。沈黙が生ずるままにしておくのは、困難でつらい感情を率直に語るための十分な余地を、掛け手に提供するための方法だと論じられている。 しかし沈黙は潜在的に危ういものだとも論じられている。というのは、沈黙があまりに多い場合には、それが掛け手に対す無頓着を示してしまう可能性があり、その結果、掛け手が電話を切ることにさえつながるかもしれないからだ。掛け手が話した言葉のある部分を繰り返すことは、ボランティアが熱心に聴いていることを示すだけでなく、掛け手に対する共感を伝える要素ともなり得る。

 私は聴くようにとても努力しています。共感を伝えるように努めているのは、沈黙することで、本当には聴いていないという印象を掛け手に与えてしまう場合もあり得ることを私は知っているからです。だから、励ましの言葉を使うように努めているんです。

 相手が使った言葉遣いを時々繰り返すのはとても役立ちます。そうすることで相手はたぶん、自分が言ったことを聞き返すことができますし、そうすることでこちらも、聴いているということを相手に示すことができるからです。

 ある種の言葉遣いや調子を表現することもまた、ボランティアが聴いているということを示す上で大切だと論じられている。しかしボランティアが話しすぎるのは不適切だと感じられるし、掛け手にとってよいことではない。電話においてたくさん話すボランティアは、「聴いていない」とか、不注意のために適切でない問題をサポートしていると評価される。ボランティアへのインタビューから得られたデータが示しているのは、このバランスをとらえて表現しようとする試みであるが、実のところ、それらは矛盾しており両立しないように見える。というのは、それらのデータは、ボランティアが沈黙することと、ある程度しゃべることとの両方を支持しているからである。

 そうですねえ、とても多くのスタイルがありますよね。でも私が大切だと思っているのは、掛け手を急がせないことです。その上で、時間を与え、沈黙を許容し、あるいは質問しすぎないことです。ねえ、必ずしもよいとは言えない癖というものがあるでしょ。電話でサマリタンズの声がたくさん聴こえる時って、たぶん掛け手は十分な時間が得られていないと思うんですよ。この点については私は断定的であり過ぎないようにしたいんです。というのは、混乱のためにうまく話せない掛け手が大勢いますから、何かを言わなければならない場合もあれば、絶対に励ましてはいけない場合もあるからです。

 私たちは聴く訓練を受けています。そして電話室で聴くやり方というのは、とても能動的に聴くプロセスです。言葉と感情を伝え返し、ある状況の下では声の調子とかそういったものも再現します。相手があなたに話していることを本当に認めていることを示し、相手が話していることに興味を持っていることを示し、オープン・クエスチョン(訳注2)を用いて詳しく尋ね、一面ではできるだけしゃべらないように努めています。私は常に、電話ではできるだけしゃべらないのをよしとする人間なんです。

 この観点に立つとき、ボランティアがすべきことは、サマリタンズが提供する独特の好機に焦点を合わせ続けることだ。その目的は、掛け手が自らの気持ちと向き合い、その気持ちと共にいるための空間を提供することである。そこにおいて掛け手はおそらく、そうした困難な体験から逃げるのではなく、むしろ自らの痛みに向き合うように励まされさえするのである。

 掛け手の多くにとって、死にたい気持ちを掘り下げ確かめるために私達が存在し、その死にたい気持ちをどのように感じているかを話すために私達はそこにいるんです。ですから、掛け手が死にたいのかどうかを突き止めることがまさにスタートなんですよ。その気持ちの状態、それはどう感じられるのか、実行したことがあるのか、以前に試したことがあるのか、計画を十分に検討したことがあるのか、この前はどんな感じだったか、そうしたあらゆる種類の探求について掛け手と話をするんです。

「気分が悪い」「目を覚ますのがいやだ」「やる気が出ない」「明日が来て欲しくない」――掛け手がそういうようなことを言うところまでこぎ着けたらですねえ、それが何であれ、会話がそうしたところまで行き着いたときには、相手にとってそれについて話せることが大切なんです。他の人は誰もそんな話を聞きたくないですよ、いいですか? そんな話を聴きたい人なんていませんよ。

出典:Home > About us > Our research > Independent re-search projects > Completed research projects > Research report:Evaluation of Samaritans Emotional Support Services



(訳注1) ニューズレター第1号に、「積極的傾聴」についてのサマリタンズによる説明が掲載されています。ご参照下さい。

(訳注2)オープン・クエスチョン」とは、「それは長く続いているのですか」に対して、「それはどのくらい続いているのですか」のように、「はい」か「いいえ」だけでは答えられない質問のこと。

■掛け手の体験談

解題:前号(8号)に掲載し切れなかったコーラーの体験談です。

ダンカンの話

 ダンカン・アーバイン、59才、20代後半にどこにも居場所がないと思いつめ、命を絶とうとしました。当時ダンカンは、スコットランドの国境にある小さな村で、精神病に苦しんでいる母親と暮らしていました。

完全に孤独
 およそ2年間で、彼女の精神状態は悪化してゆきました。しかし、当時はそれを‘人生の変化’だと思っていたのです。彼女には声が聞こえ始めました。TVが彼女に話しているというのです。自動車のナンバーを書いて私のポケットに入れました。いつも偏執病的に行動し、奇妙に振る舞っていました。

 地元の医師は診察もしなければ、支援もしませんでした。ダンカンは、もし母親が回復しなければ、彼女が隔離されるのではと不安でした。家で生活することが、ますます難しくなっていました。これからどうなるか分からないのが特にその理由でした。どうしたらよいか分からず、完全に孤独でした。

罪と恥の意識
 ダンカンは自身の性と折り合いをつけることにも苦労していました。当時、特にスコットランドの小さな村では、殆どの人はゲイという言葉を聞いたことがありませんでした。同性愛は1970年代の始めまで、スコットランドでは違法でした。それで、それについて私には罪と恥の意識があり、誰かに話すことを恐れていました。

自殺未遂
 ある日、それに耐えられなくなりました。彼はいつものように会社を出て、それからナイフを買って手首を切りました。それでは死ねず、海に身を投げることを考えました。しかしその時電話ボックスの前を通り、サマリタンズのポスターを見て、電話をすることを決心したのです。

 彼らは何も解決してくれませんでした。しかし、頭の中であらゆることが堂々巡りしていて、それがあまりにも大きく対処できなかったのです。それらを話すうち、一度に少しだけやれる何かがあるのに気づきました。

 サマリタンズの支援は、親友に彼が同性愛者であると語る勇気を与えました。―その話はうまく行きました。約1年後、彼はロンドンに引っ越し、新しい仕事に就きました。彼は今、サマリタンズのボランティアとして活動しています。

 今の人は、以前よりも少しだけ多く思いを語るようになっています。そして、性について公の場でもっと語るようになっています。しかし、多くのことで、さらに多くの孤立があります。―群衆の中で孤独を感ずる事がありうるのです。

 私のアドバイスは、先生、友人あるいはサマリタンズのようにあなたの話をただ聞いてくれる人を知っていれば、話してくださいという事です。そうすればあなたの頭を堂々巡りしていることを解決できると信じているからです。

 ダンカンのように、いつでも我々に相談出来ることを心得ておいて下さい。

出典:Home > How we can help you > How our service helps > Personal experiences of contacting Samaritans > More experiences of using our services > Duncan had nowhere else to return





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