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サマリタンズホームページより/20号

 

2018年10月16日発行

■ニュース・レターを読んで感じること

解題:20号特別号として、新潟センターの相談員の方から原稿を寄せて頂きました。また、読者であるKさんによる和訳の会へのインタビューを通じて、サマリタンズをより分かりやすくご紹介したいと思います。


「サマリタンズのHPを和訳する会」の皆様へ
   新潟いのちの電話相談員


 埼玉センターが苦労されて作っている「サマリタンズの和訳集」で勉強させて頂いている新潟センターの相談員です。毎回、内容が豊富で学ぶことが多く、大変感謝しています。
 英国サマリタンズは、自殺に至る人の心理分析とその説明・説得力が、際立っています。ですから、コピーをいただくと毎回、読みふけってしまいます。

 自殺率比較では、日本の方が、英国よりもはるかに深刻です。10位以内の日本に比べて、英国は100位付近です。英国人の自殺予防への熱意とその成果が表れているのでしょう。全国の鉄道やバスに、呼びかけのポスターで、簡潔ながら理解しやすい言葉を掲示し、電車の切符の裏側にまで印刷されているそうですから、周到な配慮という印象です。

 自殺が男性に多いことについては、「和訳する会」発行の18号(2017.11)で詳しく述べられていて分かり易いです。特に、中年男性の自殺の危険因子には、心理的・社会的・経済的・文化的な要因が強く関わるとのこと、理解できます。

 日本のフリーダイヤルは、毎月10日の1回だけですが、英国では、116 123の番号が、いつでも無料で掛けられるとあります。これもサマリタンズが熱心に働きかけたからこそ実現しているのでしょう。かつて自殺を美化さえした日本では、このようなシステムが実現するまで、あとどのくらい年数がかかるのでしょう?

 私たちの狭い視野をぐっと広げて下さる“意識の高い埼玉の有志の皆様”の働きが、心強くかつ頼りです。

 2017年10月から実施された「ネット相談の新しいシステム(三回制)」について、連盟の一方的な方針決定と実行に、いち早く声を挙げたのも埼玉センターでした。「各センターの相談員の声を聞き、民主的に相談をしてからことを進めよ」という主張の先頭に立って下さったのは、まさにこの埼玉センターの皆様でした。

 埼玉の皆様は、サマリタンズ精神を純粋に支持しつつ、これからも着実な歩みを続けて下さるでしょう。本年10月に、いのちの電話の全国大会が新潟市で行われます。どうぞご参加になり、私たちを啓発してください。

 2014年7月〜9月、ネット相談コーディネーター研修のため、3カ月間お世話になったご縁で、私は、昨年12月以来、毎月2日間「従来型のネット相談」に通わせていただいて「旅するネット相談員」を気取っています。シフト参加と「サマリタンズの和訳」を楽しみにしつつ、これからも埼玉センターにお世話になりたく思います。

 皆様と毎月ご一緒できることを、毎回楽しみにしています。


■なぜ、サマリタンズの翻訳をやっているのか

K)サマリタンズは日本いのちの電話の生みの親ということで、興味深く読ませて頂いています。ここで受けた研修の再確認と感じたり、電話をとりながら疑問に思っていたことの答えを見つけたり、サマリタンズを読み、どうして日本ではこうはいかないのだろうと思うこともあり、 今回のインタビューを楽しみにしてきました。Nさんはよく会合などでサマリタンズの話をされますが、そもそもいつから、どんなかたちでサマリタンズと出会われたのでしょう?

N) サマリタンズの存在は日本いのちの電話の生みの親ということで知っていました。1987年頃インターネット相談を紹介したT医師がイギリスに研修に行き、その時サマリタンズの日本語のラインを作りたいと交渉して16本ある電話回線のうち、1本を日本語ラインとしました。 3年後、私が1991年の5月からイギリスの英国・立教学院に2年ほど赴任した際、日本語ラインをやっているから行ってみたらどうかと声をかけられ、ロンドンにあるサマリタンズのセンターを訪ねました。それがそもそもの出会いです。

K) それはイギリスに住む日本人のための電話だったのですか?

N) イギリスのみならず、ヨーロッパの日本人のための日本語ラインです。ただし条件があって、サマリタンズ方式で全部やるようにとのことでした。例えば運営についていえば、電話が終わりかけたら、センターに来て面接するよう誘うのが条件でした。 当時のイギリスの研修は1か月半で認定されました。

K) 日本の研修よりだいぶ短いですね。サマリタンズの相談員募集と育成のための研修プログラムはどうようなものなのでしょう?

N) サマリタンズ6号にボランティア(相談員)の応募に関する研修などの記載があります。まずどのように人選するのか、A4用紙に 20項目位の質問があり、その質問用紙を用いて先輩ボランティアが1時間ほど面接します。面接の中でその人となり、自殺についてどう思うか等、応募してきた人の価値観、自分の気持ちや考えを自分の言葉で表現できるかどうかを見ます。

応募者が20人集まると無料で研修が始まります。週1回2時間の研修。ロールプレイ、ビデオ、指導するのは先輩のボランティアです。1か月半なので2時間×6回ですが、最後に10時から17時までのマラソン研修というのがあります。ここでは応募者20人のうち10人のみ認定されます。その人となりを見てサマリタンズのボランティア活動をするのにふさわしいか判断する必要があるのです。

あとはやっていくうちに身につくだろうというスタイル。しかし現在は認定後6か月間、メンターと呼ばれる先輩ボランティアがついて一緒に研修していくようになりました。イギリスでもかけてくる人や内容が難しくなってきて、1か月半の研修だけでは難しくなったようです。

S) 1日24時間、週7日、豊富な研修を受けたボランティアが電話を受けます。サマリタンズ5号2ページに記述があります。「私たちは普通の人なのです。医師でなく精神分析医でなく、財産運用のアドバイザーでなく、喪失をケアするカウンセラーでなく、あるいは他のどんな専門家としてでもなく、私たちは基本的に心の優しい、でも、よく訓練された耳を提供するだけなのです。」と説いています。

K) 日本ではここで育てようという意識がありますね。

N) 日本の「いのちの電話」では「東京いのちの電話」が1971年にスタートしましたが、最初から6か月研修期間を設けていました。その後、どんどん付け足していき研修が2年間になった時もありました。ただ、ボランティアが集まらないこともあり、1年半になりました。 1年にしたらどうかという意見もありますが、現在の状況では1年では短いと言われています。

K) サマリタンズは9回に8回電話がつながるとの事ですが、日本はよくても5%、さいたまは3.6%。これは25回に1回しかつながらないと言います。何が違うのでしょうか。サマリタンズはどうやってつながり易くしているのでしょう?

S) 日本では電話の数、相談員の数が不足していて、受信率の悪さがありますね。対応数が足りないのでなかなかつながらず、かけ手は何度もかけてくる。受信できる確率は下がる一方です。1回でつながれば何度もダイヤルする必要がないので頻繁にかけなくて済むと考えられます。

非通知制限をすると受信数の確率が上がります。サマリタンズが9回に8本は取れるというのも、かけ手が無駄にかける回数が少ないことが理由のひとつと考えられます。またサマリタンズでは全国ナビダイヤルで振り分けています。電話で相談したら面接に来るよう促します。 面接に行くのに負担にならない程の距離にサマリタンズがあるということですね。

N) 英国の支部は201支部。日本は約50センター。イギリスは無理しなくて人数が集まるところに支部をつくっています。一番少ない相談員数で16人位。その人数で電話担当するためには集まったボランティアの人数でその時間電話を聞けばいいのではないかというスタイル。日本では支部を作るのに様々な条件があります。

K) 日本のいのちの電話とサマリタンズは拠点の数が全然違うということがわかりました。日本ではこれからどのような方向へ向かうのでしょう。

S) 人が足りない、お金が足りない、受信率が悪い、この3つを変えていけたら良いと思います。ボランティアの人数は日本の国土の半分くらいにも関わらず英国で2万人、日本は6500人。人口比率で考えるとますますこの差は大きいですね。そのあたりが解決していけたらと思います。

K) イギリスでは死にたくなったら電話するようバスに広告が掲載されていたり、かけ手の体験談が実名、写真付きで載っていて驚きました。イギリスでは死にたい悩みを持っていることに対してとてもオープンに感じます。日本はなかなか打ち明けにくいのではないでしょうか?

N) 英国の歴史をひも解くと、そこには守秘義務や匿名性がありました。日本も自殺は刑罰の対象でしたがイギリスでも1945年頃、自殺や自殺未遂は刑罰の対象でした。1961年あたりから自殺は罪だという法律が改定されましたが、刑罰の廃止を働きかけたのはサマリタンズです。

K) それは興味深いですね。サマリタンズは死ぬのも自己決定と書いています。死ぬ権利をも尊重しているという事にとても驚きました。サマリタンズでは相談員であることを周囲に言うか言わないか、相談員に委ねられているようですが、問題ないのでしょうか?

N) サマリタンズでは相談員である事を周囲に知らせるかどうかは本人に任せています。「相談員は普通の人にもできます」という点をアピールしています。日本では家族や、またはボランティアに誘いたいという人に声をかける時には身を明かしてよい、となっています。日本だと知り合いが相談員をやっているとわかったら話しにくいという感覚がありますね。 深夜帯をすると行き帰りの時間で不審に思われ説明に困ることもあります。ボランティアをしていることをあえて言う必要はないけれど、説明を要する場合にはしてもよいのではないでしょうか。

K) サマリタンズの年間受けているメールを含めた相談の数、自殺に関する受信率はどのくらいですか?

N) 2010年のデータが5号に載っていますが、最新のデータをまとめたものがないか問い合わせ中です。

K) 日本で抱えるかかりにくさについてはサマリタンズとの違いがわかりましたが、サマリタンズでは資金不足、相談員不足という問題をどうしているのでしょうか?

N) 資金は寄付が多いので電話は無料です。これは日本とイギリスの文化の違いでしょう。ブリティッシュ・テレコムや富豪が寄付しています。相談員については育成の仕方、研修期間が短い。キリスト教文化で教会を中心とした奉仕の文化だからボランティアは生活の一部。

日本でいのちの電話を立ち上げるにあたり、ドイツ人の宣教師ルツ・ヘットカンプ女史達が心配したのは日本ではボランティアは育ちにくいのではないかという点でした。けれど日本でも200人から始めたボランティアは10年後には2000人、そしてその後10年で4700人、ピークでは7800人まで増えました。

今は6500人と下っていますが人数がうなぎ上りに増えたのは各県にセンターが出来ることで人数が増えていったのではないでしょうか。

K) いのちの電話では県別(地域別)にセンターがあり、ホームページも別々に運営されていますが、サマリタンズはどうなっていますか?

S) センターに約90人のスタッフがいてサマリタンズは本部でホームページを運営し、データの蓄積など、ニュースも頻繁に更新されています。ボランティアの中には電話とは別にいのちの電話としての経理財政、コンピューターなどを担うボランティアもあります。 電話以外のサポート・ボランティアです。

他にもアウトリーチと言って刑務所に出向いて囚人と話をする活動もします。囚人は人間関係のトラブルを抱えがちです。世の中に出る時うまく周囲の人とコミュニケ―ションがとれるよう研修にサマリタンズの人が行くのです。

学校で人間関係の話をするプログラムがあったり、鉄道自殺等で鉄道員がショックを受けるので鉄道とも組んで更にサマリタンズを広めています。また大学でも話の聞き方などの調査を行っています。

K) コーラー(かけ手)や相談員(受け手)が実名入りでホームページで意見を述べていますが、問題ないのでしょうか?

N) 素晴らしいことですね。非常にオープンです。サマリタンズではかけ手からの意見や体験談を募集し、載せるにあたっては出した人の希望に沿うように載せるようにしています。

K) 日本いのちの電話の記事などで目にするのですが、電話を受けている電話機の写真にナンバーディスプレイが見え、電話番号が映し出されているかのように感じます。ディスプレイにナンバーは表示されませんというメッセージを発信できないものでしょうか。 これだけオープンに出せる所だったら(言える状況だったら)、それを簡単に言えるのではないかと思います。ホームページにもナンバーディスプレイに表示されていませんとは書かれていてません。

S) イギリスの事例を見て参考にしていきたいと思います。イギリスのサマリタンズは日本の20年先を行っていると思います。

K) サマリタンズがいのちの電話より先行していて、私たちが見習うべきと思われる点をいくつか教えてください。

N) まずはオープンさではないでしょうか。10号記念号にある「サマリタンズニュースの衝撃」に寄せて頂いた愛知いのちの電話相談員の方の感想には、ホームページに写真が多いことに驚かれていました。 守秘義務について日英で理解は同じでも組織として地域に対する自己開示の仕方がまるで違うように感じたとあります。サマリタンズはテレビ・コマーシャルをやっていることや情報を含めて、このオープンさに驚きます。そしてそこを学びたいと思います。

S) イギリスはオープンさと同時にメッセージ性が強いですね。問題提起やメッセージ、問題の分析、そういうのがよく書かれています。国内における発言力があるのですね。組織として認められている。例えば近年では男性の自殺が多いところに焦点を当てて解析しています。 日本でも女性の2倍。特定の現象に対して解析して、キャンペーンなどしています。日本では自殺の記事があってもなかなか「ここへ電話して下さい」といのちの電話の案内は出てきません。サマリタンズはトップに出ます。このあたりが日本より20年くらい進んでいるのだと感じさせます。

N) イギリスにいた時、ボウリングのピンの先に穴の開いたものを持っていて駅頭でサマリタンズですと寄付を募る自由、明るさがありました。日本だと難しい。顔をさらすことすら抵抗があります。

K) サマリタンズでは傾聴という言葉がよく出てきますが、この傾聴という言葉はここいのちの電話では対話という印象があります。サマリタンズは傾聴でこちらは対話なのですか?

N) 傾聴と対話の違いはなんでしょう。確かに研修で傾聴から対話へ移行する時期があります。研修生は少し戸惑うようですね。傾聴は頷くだけというイメージです。対話は受け手が感じた言葉を返します。傾聴のとらえ方の違いがある為、対話という言葉が出てくるのですね。 一致した意見ではないのです。サマリタンズでは「アクティブ・リスニング(積極的傾聴)」と言われているものではないでしょうか。

K) ニュース第1号の発行は2013年12月です。これまで長く継続できている秘訣は何ですか?

N) 時間がある時に無理をしないようにやってきたからでしょうか。自分が良いなと思った記事を自分で翻訳しています。

K) サマリタンズのホームページには膨大な情報が掲載されていますが、このニュースに掲載するテーマの選択はどう決めていますか?

S) はじめ、目次から拾ったり、目に留まった記事を訳したりしていました。今はそれぞれ自由に選んでいます。ニュースを拾ったり、やはりサマリタンズは日本より進んでいるのでその進んでいるところを拾って皆さんに知ってもらいたいという気持ちもあります。

N) サマリタンズ2号にはサマリタンズの歴史が書かれていますが、1953年、ロンドンでサマリタンズ始まりました。日本では、いのちの電話が1971年に東京で発足しました。

 サマリタンズはいのちの電話にとって水先案内です。チャット、SNS、犯罪履歴のある人が応募してきたらどうするかなど日本にとっての先々の問題が出ています。

K) 記事の日付があるとさらによいですね。和訳の会のメンバー間の情報交換はどのようにおこなっていますか?

S) 2か月に1回くらいそれぞれ原稿を持ち寄って打ち合わせしています。

K) このニュースへの読者の反響はこれまでいかがでしょう。

N) 12号では長崎いのちの電話の相談員がイギリスのサマリタンズを訪問した訪問記があります。17号では岡山から投稿して頂きました。沖縄からも感想を頂いたり、今号も新潟から投稿頂いています。 名古屋、横浜、その他センターからも、楽しみにしているとの連絡を頂き、全国的に情報の共有が出来ることを嬉しく思っています。

K) 読者としてこれからも楽しみにしています。



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