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サマリタンズホームページより/16号

 

2017年7月18日発行

■自殺報道のメディア・ガイドライン

解題:自殺の報道には残された人々への心配りや、模倣自殺あるいは後追い自殺が起きることへの配慮など慎重な姿勢が求められます。サマリタンズは自殺報道に関し報道機関が守るべき「メデイア・ガイドライン」を作成しています。
これは定期的に改訂されていて、訳出したのは2013年9月に改訂された第5版の前半です。冒頭、サマリタンズの理想とこのガイドラインについての外部組織からの賛辞が述べられています。「はじめに」以降が本題です。

サマリタンズの理想は自殺でいのちを絶つ人がいなくなること


 サマリタンズは、後追い自殺ではないかと疑われる場合には報道機関に警告を発します。  私たちは自殺を考えている人と自殺行為を減らすため他の組織と協力してこの事業を進めています。サマリタンズは人々が悩んでいる時に、彼らが語るのに安心できる場所を、1日24時間、毎日、年間を通じて提供しています。

 私たちは、自殺報道を注意深くかつ適正に行えるよう報道機関と親密に行動し、どのようにこれらの自殺を表現するかについては、記者の取材に迅速に、そして適切に応答することを第一に考えています。「サマリタンズの自殺報道のガイドライン」は定期的に改訂されています。この改定は報道機関とともに進めている私たちの仕事の重要な部分を占めています。これは第5版です。

報道記者はなぜそれを重要と考えるのか

「無責任な自殺報道は重大な結果を及ぼします。このガイドラインは、自殺を報道する記者を支援する明快で前向きなアドバイスを提供しています。そしてさらなる自殺の発生を防いでいます」

 ーーDr Ben Goldacre Writer, Bad Science



「サマリタンズは私たちが番組を作成する上で大変な助けとなっています。報道番組で自殺問題を扱う時、その表現において彼らのガイドラインを守っているかを確かめるのに神経を使っています。そして私たちはその結果にとても満足しています。この組織と将来また仕事ができれば、さらに嬉しいです。」

 ーーJonny Benjamin Reporter & Researcher, Nine Lives Media



「自殺についての報道は、他のどんな報道よりも慎重な受け取り方と配慮を必要とします。関係する家族や友人への配慮だけでなく、他の人へ衝撃を与えるかもしれないことを配慮するためです。そのことを決して軽く見てはいけません。サマリタンズのガイドラインは一人の報道関係者として、使おうと思っている言葉や写真、さらに初めて記事とする理由についてまでも、立ち止まって考えるようあなたに注意を促します」

 ーーVictoria Macdonald Health and Social Care Correspondent,Channel 4 News



はじめに

 平均して英国(UK)とアイルランド(ROI)で年間6,000人以上の人が自殺でいのちを絶っています。これらの死のいくつかが、メディアの注意を引きつけています。自殺は複雑な話題で、それを報道する記者に独特な困難さを突きつけます。彼らは人々の興味は何かということと、後追い自殺を引き起こす危険性とを頭において要因を考察せねばなりません。同時に、業界の規制と行動規範に配慮しながら、遺族の悲しみと動揺に押し入ることを慎まなければなりません。

 ふさわしくない自殺報道は、その真似、すなわち模倣行動を引き起こすことがあると調査研究が示しています。例えば、もし精神に問題を抱える人々や若者など精神的に影響受けやすい人が自殺の方法の詳細を知ったなら、同じ方法でのさらなる自殺を引き起こします。

 同様に、自殺を遂げようとしたことがなくても、精神的に影響を受けやすい人である場合、自殺した人の心情と同じような頑な思い込みで、彼らは自殺に走るかもしれません。

 責任ある自殺報道を推進するためにメディアと密接に行動する中で、私たちはここ数年かなりの進歩した変化を見てきています。自殺報道のやり方の一つは、人々に支援を求めることを勧めることで前向きな影響を与えています。慎重な報道は、自殺の汚名に異議を唱えると同時に、自殺について語ることのタブーを減らします。

 「サマリタンズの自殺報道のガイドライン」は、業界の報道記者と編集者との広範囲にわたる協議に従い作成されました。彼らは全てのメディアに向けて、自殺報道について実務的な推奨を行いました。私たちはウェブサイトからダウンロードできる一連のちらし報告書も作成しました。「自殺の後遺症に悩む遺族とともに」「鉄道自殺の報道」「放送メディア」そして「描写のドラマ」における手引き等です。

 サマリタンズのメディアガイドラインは助言を与えます。それらは面倒なものでもなく、報道の自由を制限しようとしたものでもありません。私たちの目的はどんな場合でも、可能であれば自殺を防止する事です。何よりもまず、サマリタンズは最高品質の報道を支援することを望み、自殺報道において記者が陥りやすい落とし穴にはまらないよう支援します。

自殺についてのいくつかの事実

 自殺は深刻な社会的不公正かつ公衆保健の問題で、英国とアイルランドで毎年6,000人以上が自殺しています。さらに数万の人が自殺を企て未遂に終わっています。

 自殺はある集団で他よりも多く発生しています。例えば、自殺は女性よりも男性に多く、特に、低所得社会の30代、40代、50代の男性で多く発生しています。自殺は死亡原因で交通事故より多く、特に35歳以下でそうなっています。

 なぜ人が自殺することで死を選ぶかについて、単純な説明はなく、一つの特別な要因が原因であることはまれです。アルコールや薬物の誤用、絶望感、無力、あるいは希望がないなどと同様に、精神衛生の問題が重要な影響を与えます。

 自傷行為や過去に深刻な自殺未遂歴を持つ人は、再び同じ行為に走りやすいので、将来自殺する危険性がかなり高いです。

 自殺しようと思っている人の一部は、友人や近親者に自殺を考えているとほのめかしたり、あるいは宣言したりします。他の人は自殺したい気持を決して誰にも言わない、あるいは自殺のそぶりを見せません。

 自殺報道のいろいろな側面が、模倣あるいは「後追い自殺」の危険性を増大させると考えられています。

 これらの側面には、自殺の方法についての情報、目立ったまたは繰り返しの報道、有名人の自殺、などが含まれます。

 若者は特に「後追い自殺」をしがちです。彼らが、メディアによって最も影響受けやすい集団であることを、調査研究が示しています。

 ふさわしくない自殺報道が「後追い自殺」を助長するという証言に対応するため、多くの国では、その国の自殺防止対策に責任のあるメディア報道を盛り込んでいます。

 ほとんどの自殺未遂あるいは自殺で死亡する人は、未遂あるいは自殺したその月に健康相談窓口(healthcare service)に相談していません。精神保健を扱う窓口の専門家に相談しているのは、自殺で亡くなる人の半数だけです。

 自殺を引き起こす病気と精神疾患または病気あるいは精神疾患の状態は、治療できる可能性があります。

 メディアは社会と公衆の保健の課題として、自殺の注目度を高める前向きな役目を果たすことが出来ます。それは人々に自殺について、気をつけるべき徴候と自殺は防げるという事実を広める事が出来るのです。メディアはサマリタンズのような支援の拠り所に光を当てることで、自殺の危険性を減らす手助けが出来ます。

最善の方法、報道への助言

 自殺につて慎重な報道を行うには、報道記者にとって多くの方法があります。サマリタンズの報道局とその時間外の電話サービスは自殺報道を支援するためにあります。サマリタンズは個々のメディアの報道の仕方ついて、内々に要旨説明も行っています。
 まず最初に、報道記者は下記の助言が報道の助けになることを知るでしょう。

やるべきこと、やってはいけないこと

1、視聴者が報道で受ける衝撃を考える
 あなたの報道記事は精神的に影響受けやすい人や、死亡した人に関係がある人に影響を与えるかもしれません。ふさわしい地方または国の支援窓口にいかに相談するかの情報を提供する事は、精神的な問題を抱えている人、あるいは自殺を考えている人で支援を求めている人に勇気を与えます。それがいのちを救います。

2、自殺の方法とその表現にかかわる時は注意を払う
 自殺の方法の詳しい説明は、精神的に影響を受けやすい人が自殺を真似るのを助長することが明らかになっています。これを考慮して、サマリタンズは次のことを推奨します。

・詳細過ぎることは避ける。自殺の方法を明らかにする時は注意が必要です。首つりあるいは薬物の過剰服用の表現は容認されますが、紐のタイプや使用された薬物の種類や量の詳細は明らかにしてはなりません。見出しには自殺の方法を記してはなりません。表記することの不注意が、よく知られた自殺の方法を助長し持続させるからです。

・まれなあるいは以前知られていなかった方法が使われた事件の報道には、特別な配慮が必要です。まれなあるいは新しい自殺の方法を使った人の事件は、報道された直後に増えることが知られています。そのような報道は、人々がネットでさらなる方法を検索することへも駆り立てます。

・「過剰な同一視」による後追い自殺の危険性があることを忘れないで下さい。精神的に影響受けやすい人は、自殺した人と自分を同一視し、あるいは自殺した環境と同じと考えるかもしれません。例えば、一つの報道に、借金問題や失業と真似しやすい自殺の方法など、生活環境に関わる事を組み合わせて記述することは、精神的に影響受けやすい人に経済的ストレスの結果としてより危険性を高めます。

・ある方法が、手早く、やりやすく、痛まないあるいは確実に死ねると決して言わないで下さい。すぐにあるいは容易に真似できることを表記することを避けて下さい。

・使われた材料や道具がいつでも入手できる場所では、特に避けて下さい。

3、簡略化しすぎない
 自殺で亡くなる人のおよそ90%は、死亡する時、診断されているかあるいは診断が未確定の心の病を持っています。

 自殺の原因の簡略化あるいは「きっかけ」の推測は、誤った方向に導くことに繋がり、自殺の複雑さを正確に反映することになりません。例えば、失業、失恋あるいは死別など、一つの出来事が原因であると示唆するのは避けて下さい。

 自殺の複雑な実体と、遺族へのその衝撃的な影響を軽く見ないことが重要です。

4、自殺あるいはその影響をメロドラマ的に描写することを控える
 地域共同体の悲しみとして過剰に強調することに注意して下さい。そうすることは人々が死を悼むよりも、自殺行為を賛美しているように暗示する可能性があります。自殺を痛ましい浪費(waste)や防ぐことの出来る喪失(loss)として報道するのは、さらなる自殺を防ぐ上でより効果があるでしょう。

 家族や友人が自殺により感情的な衝撃を受けているとの慎重な記事は、自殺を考えている人が考え直したり、支援を求めたりすることに繋がるでしょう。

5、センセーショナルに扱わない、慎重な報道
 その場所を「ホットスポット」と呼ばない、あるいは特別な場所や特定のグループで「はやりもの」として自殺が増える可能性に言及することはやめて下さい。二人以上自殺した場合、例えば、似通った境遇や似通った地域に住んでいることは偶然かもしれません。関係がないのに関係があるように暗示するのは避けて下さい。

 自殺が結果をまねくという考えを広めないよう注意して下さい。例えば、ある人が自殺をしたことにより、いじめが起きたりあるいは謝ることを強いられたりしたなどです。

 見出しを書く時、内容と衝撃の可能性についてよく考えて下さい。見出しがドラマチック過ぎないか、自殺の方法を詳しく書いていないか、あるいはセンセーショナルな語句を使っていないかどうか熟慮して下さい。

 死の表現で誰かが「自殺を犯した(committed suicide)」のようなふさわしくない言葉が用いられていないことを確認してください。「自殺で死亡した(died by suicide)」のような別の表現にして下さい。

 遺書の内容を書くことはやめて下さい。

6、配置と記事のイラストを注意深く考慮する
 ある種の自殺はメディアの激しい取材を引きつけます。しかしながら、可能な場合は、フロントページに掲載したり、ニュースの最初に報道したりして記事が目立ち過ぎることのないようにして下さい。そうすることが精神的に影響受けやすい人々に過度に影響を与えてしまうかもしれません。

 自殺報道に関係する写真の選定や配置には、さらなる注意を払って下さい。例えば、死亡した人の大きなあるいは目立つ写真が必要かどうか問うて下さい。

 死亡した人の写真を、例えばオンラインギャラリーのように、繰り返し使用することは避けて下さい。以前死亡した人の写真を、その人に関するその後の話、あるいは誰か他の人の話を説明するために、繰り返し使うことも避けて下さい。そうすることは遺族をことのほか苦しめます。

 岸壁の出っ張りに立っている人のように、ドラマチックで感情的な写真や場面は避けて下さい。橋や崖、特にそこがしばしば人が自殺する場所であれば、その場所を記事で説明しないで下さい。

7、教育して知らせる
 可能な時は、自殺と関連して、アルコール依存症、こころの病、喪失感など幅広い問題に言及することを心がけて下さい。さらに自死遺族への生涯にわたる自殺の強い影響を考慮して下さい。このような問題を議論することは、自殺に関する論題のよりよい理解を促します。

 もし可能であれば、自殺は防げるものだということと、サマリタンズのような支援の拠り所についての言及を含めて下さい。

「数年にわたりサマリタンズは、自殺行為のメデイア報道と描写に対し、とても有効なアドバイスをして来ました。このことにより、全く当然のことですが、多くの報道人から彼らは尊敬されています。規制する役目の人、為政者および研究者からも同様に尊敬されています。」

 ーーProfessor Keith Hawton Centre for Suicide Research,Oxford University

出典:Home > Media centre > Media Guidelines for the reporting of suicide



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